歯の数と認知症の関係を研究データからひも解き入れ歯で噛む意義を知る

歯の数と認知症の関係を研究データからひも解き入れ歯で噛む意義を知る

歯の数と認知症の研究データから考える、今の噛み心地と口全体の管理

歯の数と認知症の研究データは、たくさんの人をまとめた傾向を示すもので、それだけでひとりの発症を予測したり治療法を決めたりすることはできません。自分の歯が少ないことや物忘れが重なると、将来が不安になることもありますが、まずは「今、何が食べにくいか」とお口全体の状態を確かめることが出発点になります。

この記事では、研究で出てきた数字や持病とのかかわりを落ち着いてひも解き、入れ歯などで毎日の食事や会話を支える意味と、認知症の予防を言い切らない考え方をまとめます。そのうえで、歯科医院で相談できる治療のえらび方や、残っている歯を守るケアをお伝えします。

この記事の要点まとめ

  • 研究では歯の少なさと認知症のつながりが報告されていますが、ひとりひとりの将来を予測するものではありません。
  • 入れ歯は食事や会話を支える方法のひとつで、噛みにくさや浮きは歯科で相談できます。
  • 毎日のお手入れと定期的な受診で歯を守り、物忘れはかかりつけ医や地域の窓口へ相談できます。

歯の数と認知症の関係は、研究でどのように報告されている?

歯が少なく入れ歯も使っていない人で認知症の発症が多い傾向は報告されていますが、これはあくまで多くの人をまとめた集団での傾向です 1。まずは調査がどのような人を対象に、何を比べたものなのかを確認していきましょう。

65歳以上4,425人を4年間追跡した研究で調べられたこと

国内のある調査では、65歳以上の元気な高齢者4,425人に歯と入れ歯の状態をアンケートでたずね、その後4年間、認知症と認められたかどうかを追いかけています 1。調べたのは、はじめの時点で残っている歯の数や入れ歯を使っているかどうかと、その後の認知症との関わりです。ひとりの人を診断したものではなく、地域の高齢者をしばらく見守って集めたデータです。

この調査は、どんな人同士を並べているのか

こうした報告で並べられているのは、自分の歯が20本以上残っている人と、歯がほとんどなく入れ歯も使っていない人です 。つまり、歯の本数だけでなく「入れ歯を使っていないこと」も条件に含まれた比べ方です。歯の喪失が多いほど認知機能の低下と関連する傾向を示した複数の研究の解析もありますが、いずれも集団の傾向であり一人ひとりの発症確率を示すものではありません 2。

歯周病と認知機能の低下を扱った研究もある

歯の本数だけでなく、歯ぐきの病気(歯周病)のようすと、もの覚えなどの力の低下や認知症とのつながりを長く調べた研究をまとめた報告もあります 3。「歯周病が脳にひびくのか」と心配される方もいますが、つながりは示されているものの、どんなしくみでひびくのか、そもそも直接の原因と言えるのかは、いまも調べられているところです 。

歯が少ないと認知症になる、と言い切れるの?

歯が少ないと認知症になる、と言い切れるの?

歯が少ないからといって、将来認知症になるとは言い切れません。研究で「関連が報告されていること」と、歯の少なさが「直接の原因であること」は別の問題だからです 24。

ポイント

研究データは「一緒に起こりやすい傾向」を見ているため、歯の本数だけでご自身の将来が決まるわけではありません。

「関連がある」と「原因である」はどう違う?

アンケートや追跡調査などの観察研究で見えるのは、2つの事柄が「一緒に起こりやすい」という関係です。たとえば、冷たい飲み物が売れる日に水難事故が多いとしても、飲み物が事故の原因ではなく「気温の高さ」が両方に関わっています。同じように、歯を失ったから認知症になったとは断定できないため、研究の数字を個人の発症予測や治療選びの決め手にしないことが大切です 2。

年齢・糖尿病などの持病・生活習慣も結果に重なっている

歯を失いやすくなる背景には、年齢を重ねることによる唾液の変化や、糖尿病などの生活習慣病、喫煙、歯科へ通う機会の少なさなどが関わっています。とくに糖尿病は歯周病と互いに影響し合うことが知られており、唾液が減るなどしてむし歯のリスクが高まる場合もあります。こうした年齢や持病、外出や人との関わりの変化は、認知機能にも同時に影響しうる要因です。研究では統計的にこれらの影響を調整しますが、すべてを取り切れない場合があるため、「歯が少ない=自分の将来が決まった」と結び付けて考える必要はありません 4。

物忘れが気になるときは、歯科とは別に相談先を持つ

もし最近、物忘れが増えてご家族に負担をかけるのではないかと気になっているときは、歯科とは別に相談先を持つと整理しやすくなります。物忘れや体の心配は、ふだん通っている内科などのかかりつけ医や、市区町村の認知症の相談窓口、地域の相談先をまとめた案内(認知症ケアパス)、若年性認知症(65歳未満で発症する認知症)の相談窓口などで相談できます。一方で、食事中にむせる、入れ歯が浮く、かたい物をさけるようになったといったお口の困りごとは、歯科医院へ相談するめやすになります。

入れ歯で噛める状態を保つことに、どんな意義がある?

入れ歯などでお口の機能を補う意義は、お肉や生野菜を味わうことや、人と会って楽しく話すといった毎日の暮らしを支えることにあります。ただし、入れ歯を使うことで認知症を予防できるとまでは断定できません 4。

食事と会話を支えることと、認知症予防を断定することは分けて考える

歯を失ったあとに入れ歯を使っている人では、使っていない人に比べて認知機能の低下が少ない傾向を示した研究の解析があります 4。しかし、これも普段から健康管理や通院ができる人ほど入れ歯を使っているといった背景が重なる観察研究のため、予防効果とまでは言えません 4。それよりも、噛める状態を保つことで避けていた食材に挑戦しやすくなり、友人との食事や会話の機会を保ちやすくなるという、日々の生活で確かめられる変化に目を向けることが大切です。

入れ歯が浮く・噛みにくいときは、調整か作り直しかを歯科で確かめる

数年前に作った入れ歯が食事中に浮く、歯ぐきに当たって痛い、外れやすくて人と食事に行きづらいといった変化は、歯科医院へ相談する目安になります。年齢とともにあごの骨や歯ぐきの形、残っている歯の状態は少しずつ変わるため、現在の入れ歯のバネや裏側を調整することで落ち着く場合もあれば、お口の形に合わせて作り直しを考える場合もあります。ご自身でヤスリなどで削ったり、市販の安定剤や接着剤に頼り続けたりすると、かえって噛み合わせや歯ぐきを痛めることがあるため、まずは状態を確認してもらいましょう。

入れ歯の毎日の手入れと、噛みやすい食事の工夫

入れ歯を気持ちよく使い続けるには、毎日外して専用のブラシと洗浄剤で洗う習慣が基本になります。このとき、一般的な歯みがき粉には研磨剤が含まれており、入れ歯に細かい傷がついて細菌が繁殖する原因になりうるため使用しないようにしましょう 5。また、お肉は繊維を断つように切り込みを入れる、生野菜は薄くスライスするか少し湯通しするなど、かむ力や飲み込む力に合わせて調理法を工夫すると、無理なく食事の品目を増やしやすくなります。

歯の少なさが不安なとき、歯科ではまず何を確認する?

歯の少なさが不安なとき、歯科ではまず何を確認する?

当院では、歯の本数や認知症への不安から急いで治療法を決めることはしません。今の食べにくさとお口全体の状態を確かめ、むし歯・歯周病や持病を確認したうえで、入れ歯・ブリッジ・インプラント・治療しない選択を含めて一緒に相談していきます。

ポイント

「入れ歯が浮く」「お肉が噛みにくい」といった日常の困りごとから出発し、お口全体の状態とご希望を照らし合わせて選択肢を整理します。

歯の本数だけで治療を決めず、食べにくさと口全体の状態を確認する

当院では初回に個室のカウンセリングルームでお悩みを伺い、むし歯や歯周病の有無、歯並びの状態を確認しております。そのうえで、歯科用CTやレントゲンなどを用いて歯やあごの骨の状態を詳しく調べ、患者さまごとに治療計画を立てていきます。受診の際は、専門的な言葉を使う必要はありませんので、「食事中に入れ歯が浮く」「硬い物が噛めない」「外れるのが心配」といった普段の言葉でそのままお伝えください。

インプラントを検討する場合も、むし歯・歯周病への対応が先

入れ歯が合わない場合の選択肢としてインプラントが気になる方もいらっしゃいますが、当院ではむし歯や歯周病があれば、インプラントの前にその治療を行います。これまで歯を失ったことを悔やむよりも、今残っている歯と歯ぐきの炎症を整えることが、お口全体の健康を将来にわたって守る土台になるためです。お口の中の環境を整えてから、欠損部分をどう補うかを考えていきます。

糖尿病などの持病と服薬内容も、治療を考えるための確認事項

当院では、持病のある方はお飲みの薬とからだの状態を確かめ、治療ができるかどうかを慎重に判断しております。糖尿病や高血圧、骨粗しょう症などの薬は、外科の処置ができるかどうかや治りぐあいに関わることがあるため、お薬手帳をお持ちいただき、治療中の病気もお知らせください。一般的には、必要に応じて内科などのかかりつけ医と相談しながら治療のしかたを考えます。

認知症への不安だけで決めず、入れ歯や治療しない選択も相談する

当院では治療計画、内容、費用、リスク、さらにその治療を行う理由と見込まれる結果を事前に説明し、お見積もりと同意を経てから治療を開始いたします。その際は、入れ歯やブリッジ、あるいは今は外科的な治療をしないという選択も含めてご相談をお受けしています。

選択肢 特徴と生活への関わり 主な注意点・リスク
入れ歯(義歯) 取り外しが可能で、保険診療から自由診療まで種類がある 慣れるまで違和感や浮きが出ることがあり、毎日の清掃と調整が必要
ブリッジ 両隣の歯を土台にして固定するため、装着時の違和感が少ない 土台となる健康な歯を削る必要があり、支える歯に負担がかかる
インプラント あごの骨に人工歯根を埋入する。天然歯に近い感覚を目指せる 自由診療で外科手術を伴い、術後の痛み・腫れ・出血やインプラント周囲炎のリスクがあるため定期的なメンテナンスが必須

なお、保険が使えない自由診療の入れ歯の費用は、種類やお口の状態によって変わります。当院のインプラントは自由診療で、埋入(1本)385,000円、上部構造(1本)110,000〜165,000円です(税込)。認知症への不安から無理に手術を選ぶのではなく、お体への負担や通院のペースに合わせて考えていきましょう。

残っている歯を将来にわたって守るには、何を続ければよい?

残っているご自身の歯を将来にわたって守るには、ご自宅での毎日のケアを具体的に見直すことと、お口の状態に合わせて歯科医院で定期的に確認を受けることの両輪を続けることが大切です。

ポイント

歯科医院で過ごす時間と、毎日ご自宅で歯を磨く時間の両方を組み合わせることで、残っている歯と歯ぐきを守りやすくなります。

残っている歯のケアは、清掃器具と使うタイミングまで相談する

「毎日丁寧に磨いているつもりでも歯石がつく」というお悩みに対し、当院では歯周病治療の際、歯科衛生士が検査結果を基にブラッシングの状態を確認しております。患者さま一人ひとりの歯並びや残っている歯の位置に合わせて、歯ブラシやデンタルフロス、歯間ブラシなどの清掃器具をご案内します。さらに、「夕食後のテレビを見る前」「お風呂の中」など日常生活のどのタイミングで使うかまで一緒にお伝えしています。

歯周病は検査・除去・再検査を経て、治療を終えるかを決める

歯周病は気づかないまま進むことがあるため、順を追って確かめることが大切です。当院でははじめの検査で歯周ポケット(歯と歯ぐきの境目のみぞ)の深さを測り、どの歯にどのくらい炎症があるかを調べてから、歯垢・歯石を取りのぞきます。そのあと、もう一度検査を行い、追加の治療がいらなければメンテナンスへ移ります。

深いところに歯石や歯ぐきのはれが残るときは、歯科衛生士が拡大鏡を使って取りのぞく次の段階へ進みます。そのときも、歯ぐきを切る手術を行う道と、手術をせずにはれをおさえていく道を、ご希望に合わせて相談していきます。

基本は3ヶ月に1度、口の状態に合わせてケアを続ける

当院では、「ずっと自分の歯を残したい」という思いを形にするため、予防歯科にスウェーデンのイエテボリ大学・アクセルソン教授が提唱するメンテナンス方式を取り入れております。基本の間隔は3ヶ月に1度とし、お口の中の状態に応じて定期的な通院をお勧めしています。この3ヶ月ごとの通院は、むし歯や歯周病、噛み合わせを管理するための目安で、認知症を防ぐための受診間隔ではありません。

定期的にお口を拝見する中で、「最近入れ歯が少し浮く」「硬い物が食べにくくなった」といった変化も気軽にお伝えいただけます。練馬区光が丘の当院では、お口からの健康を将来にわたって見守る体制を整えておりますので、まずは現在のお悩みをお聞かせください。

よくある質問

Q. 高齢者のむし歯を放置すると、どのようなリスクがありますか?

A. 加齢や服薬の影響で唾液が減ったり歯ぐきが下がったりすると、歯の根元にむし歯ができやすくなります。放置すると痛みのために噛める場所が減り、食事の偏りにつながるほか、歯の神経やあごの骨に炎症が広がって抜歯が必要になることがあります。また、残っている歯の形が変わることで、使っている部分入れ歯のバネが合わなくなる原因にもなります。

Q. 歯周病は脳に影響を与えますか?

A. 歯周病による長引く炎症と、もの覚えなどの力の低下や認知症とのつながりを長く調べた研究をまとめた報告では、両者に関連があるとされています 。ただし、歯周病の細菌や炎症のもとになる物質がどう関わるのか、歯周病が直接の原因なのかはまだ調べられているところで、歯周病があればかならず物忘れが進むわけではありません 。お口とからだの両方のために、歯ぐきのはれを整えておくことをおすすめします。

Q. 認知症の予防になる職業や生活習慣には、決まったものがありますか?

A. 「この職業に就いていれば認知症にならない」と言い切れるものはありません。日々の暮らしでは、仕事や趣味、地域での集まりなどを通じて人と会話をすること、バランスのよい食事や適度な運動を続けること、高血圧や糖尿病などの持病をきちんと管理することを心がけるとよいでしょう。お口の環境を整えて食事や会話を楽しみやすくすることも、そうした日々の暮らしを支える一部になります。

Q. 家族の物忘れや行動の変化が気になるとき、通院が難しくなる前に歯科でできることはありますか?

A. 物忘れやふだんと違う行動が気になり始めたら、まずはかかりつけ医や地域の認知症の相談窓口へ相談しましょう。医師の診察や、利用できる支援サービスの案内(認知症ケアパスなど)を受けることが先になります。そのうえで、ご本人が通いやすいうちに歯科医院で入れ歯の合い具合やむし歯・歯周病の有無を確かめておくと、将来お手入れが難しくなったときのお口の管理の方針を、ご家族と一緒に立てやすくなります。

参考文献

1. 第1部|歯の健康シンポジウム2019秋・イベントレポート. https://www.jda.or.jp/asahiruban/vol44/symposium/

2. Qi X, Zhu Z, Plassman BL et al. Dose-Response Meta-Analysis on Tooth Loss With the Risk of Cognitive Impairment and Dementia. Journal of the American Medical Directors Association. 2021. PMID: 34579934 / DOI: 10.1016/j.jamda.2021.05.009

3. Asher S, Stephen R, Mäntylä P et al. Periodontal health, cognitive decline, and dementia: A systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Journal of the American Geriatrics Society. 2022. PMID: 36073186 / DOI: 10.1111/jgs.17978

4. Ma X, Zhang Y, Wang J et al. Association between denture restoration for tooth loss and cognitive impairment: A systematic review and meta-analysis. Journal of prosthodontic research. 2025. PMID: 39938901 / DOI: 10.2186/jpr.JPR_D_24_00060

5. 大垣市公式ホームページ「清潔な入れ歯でなんでもおいしく食べよう!」 https://www.city.ogaki.lg.jp/0000020630.html

松山昌弘

歯科医師


松山歯科医院

院長

松山昌弘

▶ 監修者プロフィール

経歴
国立筑波大学付属高等学校卒日本歯科大学卒
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 所属
医療法人社団夢仁会 中村歯科医院 袖ヶ浦インプラントセンター勤務
資格・所属学会
日本口腔インプラント学会所属日本臨床歯周病学会所属
日本歯周病学会所属
厚生労働省認定 歯科医師臨床研修指導医
インディアナ大学歯学部 歯周学インプラント科 JIP-IU研究員
日本顎咬合学会所属
日本歯科大学・セントラルクリニック歯髄細胞バンク認定医